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Words Without Borders is an inaugural Whiting Literary Magazine Prize winner!
from the October 2016 issue

横書き

火が来るよ、もうすぐここに火が来るよ、
って 知らせつづける女の蛇がいましてね、
押入れの天袋に、ようようと住まっておったんです
布団に入ェるたび、
その声 聞こえて、大きくなったから、姉さんも わたしも、
しまいに 保たなくなってしまったの、
ぎゅうぎゅうに こめかみが張り込んで、
今夜じゃねェか、今夜じゃねェか、
消したか、切ったか、閉めたか、火の矢が入る隙間はないのか、
目ン玉 落ッことすほど、確かめるよになってしまって、

蛇は、三代前の女工さんの化身です
すれ違う男衆が 振りかえる別嬪だったけども、
慕った人に 騙されて、
ヒロポンやるよになってしまって、
寄宿から出られんほど、
夢サ 見るよになってしまって、
火が来るよ、もうすぐここに火が来るよ、
火事の幻 見ておった
あッこに 火ィ点かるの、焦がれてたンかもしンないねぇ
女ばっかしの工場だから、
吸呑で水ふくますと、ちっと気もどりして、
片頬が笑ったってがァ
見ッ事な富士額が、せつな気で、
火が来るよ、熱いよ熱いよ、
って 蒸気して、痙攣して、うなされ死した
ここで葬式あげたって、聞きました
里の兄さんは もらいに来ねェで、
形見になった髷さえ、
とうとう天袋にしまい込まれて、
それですよ、
夜ごと 騒ェでンのは、

焜炉の火、ストーブの炎、炬燵のレンタン、煙草盆、
風呂の釜、雨戸の掛け金、窓の鍵、
あんまり真剣だと、
ひとつ見たあと、前のがわからなくなるもんです
ソリャ八百長だって 蛇さまの声すれば、初めっからやりなおし、
火が来るよ、もうすぐ来るよ、
這いずらざるをえんのです
糸繰り工場の 足もとに置く七輪、
二人とも どんだけ目で舐めたか、わかんねェ

齧りッ付くから、声はおッかねェよ
きっかけは姉さんで、
ただ ふざけてただけなんです
ふりしてただけなんですよ、女工さんの、
風呂場の灯り まっ暗にして、
火が来るよ、熱いよ熱いよ、って 真似すンだもの
わたしは 泣きました
おどかす姉にしッがみついて 泣きました
びっくらしただけなんです
でも、
幼い姉は底光りして、冷えていく湯気ン中で、
真へ、迫って いきました
火が来るよ、火が来るよ、来るよ来るよ工場が燃えるよ、
声が 声サ 手ェかけて、
来てしまった
踵を返して、来てしまった
ギィッと、
喰い込まれる、まッ裸の二人でした

布団サ おッくるまって、こらえてたけど、
どうしても 這い出して、
背中に スーっと立っている、
女工さんは、
いっしょに 火の元 のぞきこんでる
這って、這って、這いずって、
天井裏が 埃サ吐いて、
簞笥の把手が カタカタ鳴って、
腹に下りねェの、実感が、
わからねェの、いッくらしても、
火の気サ見て、火の怪を 見つけてしまう、
わたしたちは、
消したかどうかの度が過ぎて、
 消えてる焜炉の瓦斯穴が、
  消えてる煙草の吸い殻が、
   消えてる火鉢の燃え滓が、
灯ってしまう、
  見てしまう、
 怪し火を、
追ッかけるわたしを追ッかける姉さんを追ッかける女工さんを追ッかけるわたしは、
追ッかける姉さんを追ッかける女工さんを追ッかけるわたしを追ッかけるわたしは、
わたしたちは、
巴になって喘ェでる 鼠です
乳サびくびく震わした 家鼠です
追ッ付かないの
走り火に、

糸車が笑ってる

工場脇のドブ川のほとりで、よく花火したもんです
仏壇から真鍮のローソク立て 持ってきて、
仏さんの火に、色紙よせて、
じんわり 火薬サ吸わします
ちっと咽せてから、
火は、
跳ねるでしょう、
回るでしょう、砂利けって、
子どものくるぶし 掠めとろうとするでしょう
水に映って、
プンッと 鼻緒が焦げたとき、
齧りッ付くんです、
火は、
ないでしょう、足が、仏さんには、
だから 喰らいッ付くんです
追われてンのは、わたしたち なんですよ
わたしたち、
 なんですよ

糸車が笑ってる

まッ赤な夜具がありました
女工さんの古襦袢サ はぎ合わしたものでした
潜りッこめば、
面映ゆくて、風が喉を抜けました
いっそう潜れば、
西日が射して、らんらんと、
太った蛇が、
天袋から 這い出そうとしておりました
二匹の鼠を 狙っていました
瞳が 火色に 透けていました
 めらめら、
    炎が、
   這ってくる、

燃えました、
    女工さんが、
        髪がほどけて、かげろうになりました
燃えました、
    姉さんが、
        反ッ歯から、ちょろっとベロを出しました
わたしは、
    ドブッ端に立っていました
くるぶしが、
    カッと裂け、

糸車が回ってる。熱風に回ってる。火の手をつかんで回ってる。執念深く回ってる。

とぐろのように回ってる。宿世をにらんで回ってる。紡績工場は、火の車。火の渦

のんで回ってる。どこまでも回ってる。いつまでも回ってる。

回ってる。

まッ赤な糸を紡いでる。

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